34歳 女 心理療法と薬物療法で鬱から回復 人生は悪くないぞ
私は長らくうつ病を患っていた。
発症は17歳、学生生活と家庭環境の問題でうつの症状が出始めた。
ただ発症してすぐは「気のせい」と思い込んでいたため放置。
当然だけれど、徐々に悪化した。
当時の自分は「うつ」ですぐに「病院へ」という感覚が無かったため、そのまま重症化の一途を辿り、社会人になった21の歳にとうとう身体自体が動かなくなった。
金縛りのような状態で起き上がることも出来なくなった。
「うつは心の風邪」という言葉を単純に信じていたので、薬を飲めば治るのだと思っていた。
けれど投薬を6年ほど続けても、体調には波があり、どうにも治る気配が無かった。
27の頃、別の病気で入院をした。
それが回復のきっかけになった。
当たり前なのだけれど、入院するとうつ病で通うクリニックには行けなくなるので、入院する病院で薬を処方してもらうことになる。
そこで薬剤師さんに、お薬手帳を渡したのだけれど。
「こんなに薬を飲んでいるんですか……?」と驚かれ、私は呆気にとられた。
私はどうやら、通院していたクリニックで、多剤投与……所謂”薬漬け”の状態にされていたらしい。
薬剤師さんは薬の処方内容を確認しながら、躊躇いがちに「病院に確認をしたほうがいい、こんなに飲んでいたらどれが効いていて何が副作用なのかも判断できない」と説明を受けた。
私は『処方された薬を飲めば治る』とものすごく短略的に考えていたけれど、そうではなかったのだ。
よく考えれば当然のことなのだけれど、うつになると物事を一方的に思い込んでしまう思考になる。
それが薬に対しても出ていた。
(現在では多剤投与が薬事法で禁止されているので、こういった問題は少なくなってくれていると思うけれど、もし薬の量が多い場合は気をつけるポイントにしてほしい)退院後、入院した病院から紹介してもらったメンタルクリニックへ変更。
そこでは投薬治療と共に心理療法を行っていた。
あくまでも薬は補佐的な役割で、基本は心理療法をメインにしていた。
薬の量を少しずつ減らし、身体を慣らしつつ、様々な心理療法を試した。
ありがたいことにここでは保険適用で心理療法を受けられた。
長い治療のため受給者証も申請できて、カウンセリングで馬鹿みたいな高額を取られることもなかった。
カウンセリング・認知行動療法・EMDR・ヨガ療法・アート療法・アロマ療法……とにかくできることはすべてやった。
うつは完治しない病気であることを認識すること。
病気とどう付き合っていくかを知ること。
自分がどういった思考の癖を持つのか把握すること。
うつに悩まされないために、自分で自分をどう操るかを知ること。
治療、思考、行動、治療、思考、行動……それを繰り返した。
例えば日記だ。
これがやり方によってはとても心理療法として効果がある。
その日の日記に「必ずひとつポジティブなことを書く」というルールを設けて、それを続けた。
うつの間に書く日記なんて、本当に暗くなる。
良いことなんか何も書けない。
そもそも家から出られないような日々が続くので、何も楽しいこともなければ、何も出来ずに寝たきりのこともある。
良いことなど書けるわけがない。
ただそれでも、必ずひとつだけ、良かったことを書くのだ。
普通の人からしたらなんとも思われないようなことでも良い……例えば「いつもより早く起きれた」だとか「少しだけ掃除が出来た」とか。
昨日出来なかったけれど今日出来たことや、TVで見て面白いと思ったCM、素敵だと思った音楽、とにかくマイナスではないこと。
そしてネガティブなことには青線、ポジティブなことには赤線を引く。
読み返す時は必ず赤線だけを読む、青線部分を読まない(これは絶対)。
自己肯定感を高める作業だ。
面白いことに、回復するにつれて日記を書かなくなっていった。
まず日記に書きたいほどの鬱憤が無くなる。
それから、普通に一日の良かったことが簡単に思いつくようになるので、わざわざ「ポジティブなことをひとつ書かなければいけない」というルールを立てる必要もなくなってくる。
というか、鬱々しいことを書くのが面倒になる。
そもそもそういった文面を書いたところで「二度と読み返さないための青線」が引かれるのだ。
二年もやれば書く意味を感じなくなる。
(あとネガティブな文言は大体内容が同じであることが多いから書かなくなる)それ以外にもマインドフルネスなど、自分でできる心理療法も習って毎日やった。
アロマ療法も、好きな香りで自分の安心できる環境を少しでも作れると感じて続けた。
認知行動療法で自分の思考の癖や認知の歪みを確認し、EMDRで自分にとってのトラウマとの対峙や修復も行った。
うつは、自分の『自信』を恐ろしいほど滅ぼす。
それは感情論ではない。
健康的なメンタルで生きるために必要な、セロトニンだとかノルアドレナリンだとか、そういう脳内物質が出なくなる脳の病気だ。
心の風邪、なんていう軽いものではない。
脳の病気なのだ。
気持ちではどうにもならない。
それには薬物治療と、自分と向き合い自分を変えてゆく心理療法、両方の治療が必要になる。
正直、うつ病の治療はめちゃくちゃ大変だ。
健康な人はそんなことをする必要もないし、せいぜい風邪をひいたら薬を飲めば良いだけなのに、うつ病となったら薬物だけじゃどうにもならない。
自分の心に直接触れられるのは自分しかいないから、治すためにも自分で治療法を会得しなければならない。
とんでもない病気だ。
けれど一生付き合うのだ。
仕方がない。
会得しておけば、今後また「死にたい」などと思っても対処ができる。
例えば私は、憂鬱になってきたら、肉を食べ、お風呂で身体を温め、早く寝る。
その日にウダウダ考えるのをやめる。
すると翌日には大体問題なくなる。
そこまで持ってくるために、訓練で5年くらいかかってしまったけれど。
自分を知って、過ごしやすくなって、以前の重いうつ状態になることは無くなった。
うつ病は、脳の病気だ。
鬱々しさを個性と思い込んでポジティブに生きるのも手かもしれないけれど、不調が続いて明らかに病気であると診断されているのならば、どうか「病気である」と認識して治療に向かってほしい。
脳の伝達物質の不調なんぞで、人生を滅ぼされちゃ死んでも死にきれない。
今あなたの頭に浮かぶ「死にたい」は、あなたの意志ではない、脳内伝達物質の不足のせいだ。
回復すると、人生は悪くないぞ。